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作:T.Kさん 2006年2月13日投稿分

バレンタイン企画に投稿して頂いたSSです。
──…少年は走っていた
──…全速で、肩を揺らしながら必死に走っていた。
──…その先にはもの凄く可愛い少女がいた、自分の苦労が報われる、そう思い少年はさらに急ぎ足で少女の元へと向かった。
だが、彼を迎えてくれたのは優しい言葉などではなく、ただただ真実を述べる言葉であった。
「裕一、遅い!!」
やたらとカップルで賑わっている公園。
その中に設置してある噴水の広場はよく待ち合わせなどに使われている場所である。
少年達も例外ではなくこの場所を待ち合わせに利用していた。
「わ、わるい」
突然に声を浴びせられた少年は、驚き、腰がひけてしまっている。
身振り手振りで事情を説明しようと心がけてみるものの少女は全く取り合ってくれない。
「ホントに、女の子を待たせるなんて、これ以上こなかったら一人でいくとこだったわよ!」
周りの人が何事かと声をしたほうが見るがそんな事はおかまいなしである。
「ご、ごめんって…ホント、そ、その代わりに今日一日俺を好きに使っていいからさ、な?き、機嫌直してくれよ」
しどろもどろになりながら発した言葉にもはや男としての威厳はゼロだ。
「元からそのつもりよ!…とりあえず、喉が渇いたからあそこの自動販売機でジュースでも買って来て」
そう言うと彼女はすぐ隣にある自販機ではなく、200Mほど先にある自販機を指差した
「自販機ならすぐそこに…わかった!いってくるからちょっとまってろって!」
10、9、8、カウントを始めた彼女に彼は慌てて
「オレンジジュースでいいんだよな!」
そう告げると全速力で自動販売機へと駆けだしていった。

「……た、ただいま」
驚くほどにぴったり10分後、息を切らしつつ彼は帰ってきた。
「遅い!」
彼女はあくまでも率直な、だがしかし事実を述べた。
途中何度も人にぶつかりかけ、そのたびには丁寧に頭を下げてきた彼は息を整えながら決死の反抗を試みる。
「そ、そんな事言われても仕方ないだろ、人多いし…」
今日は普段に比べカップルが多い気もするのだが、その理由について少年はよく考えることはしなかった。
「そんな事関係ないわよ、あたしが飲みたいっていったらすぐもってくるのは当然の事よ」
何が当然なのかよくわからないが。
少年がふと何かに気づき、時計を見ると時刻は待ち合わせの時間から20分が過ぎようとしていた。
「そ、そんな事より早くいこうぜ、映画始まっちまう」
と言ってもまだ少し余裕はあるのだがあっちに着いて少しゆっくりする時間を考えるとこれくらいが丁度いい。
「もうそんな時間?裕一がトロいから」
まだぶつくさと言っていた彼女だが
「いいから行くぞ・・・ホラ」
彼が手を差し出すと、
「・・・うん、いこう♪」
その手を強く握り返し、笑顔で歩き始めた。


(やっぱり里香は可愛いな、、、)
ふと、手をつないで歩く一人の少女の横顔をじっと見てみる。
「・・・何よそんなにニヤニヤして」
いきなり振り向いた彼女に慌てた僕は、
「い、いや、なんでもない」
あからさまに挙動不審だったが必死に誤魔化してみる。
「フーン・・・まぁいいや、で、今日はどんな映画を観るの?」
一瞬不審者を見るような目で見られたのは痛かったが、
心の内はバレなかったようなのでホッとする。
「今日はホラーものを見ようと思うんだけど・・・怖いのとか嫌いか?」
僕の問いに対し一瞬悩むような仕草を見せる彼女だが、
「うーん・・・どうなんだろ、あんまり見たことないからわかんない、まぁ裕一と一緒にいれるならなんでもいいよ」
少し頬を赤らめながらも笑顔で答えてくれる彼女につられて僕も思わず笑顔になってしまう。
「そっか、じゃあ今日はホラーもので決まりだな、今人気のやつだからきっと面白いぞ」
「うん、そうだよね、面白くなかったら制作者に文句言わないと」
彼女は嬉しそうに笑いながら返事をしてくれた。
彼女の名前は秋庭里香、髪が長くて肌が白い。目はクリクリとしていて、その、なんというかかなりの美少女だ。
今日はいつも見慣れたパジャマ姿ではなく、可愛らしい白のワンピースを着ている。
可愛らしいピンク色のバックが膨らんでいるところを見ると中には色々と入っているようだ。
それに対し僕は至って普通の高校生、特に秀でた所があるわけではない。
成績は普通、運動神経も普通、ルックスは・・・自分で言うと惨めなのでやめておこう。
そんな彼女と僕が一緒に歩いていればそれなりに人目に付いたりしてしまう、嫌ではないのだがなんというか少し恥ずかしい。
「──…でね、その時谷崎さんが…裕一聞いてる?」
ものすごく可愛い笑顔で話されればそりゃ嫌な気はしない、するわけがない、だが周囲がコチラを見てくるのはやはり
少し抵抗がある。
「──…裕一、ちゃんと話聞きなさいよ!!」
里香が膨れて怒鳴りつけてくるのにハッとし
「あ、わ、悪い、ちょっとボーっとしてた・・・」
思わず謝ってしまった。
「もう、折角の、デートなんだからしっかりしてよね」
またやってしまった。
朝、待ち合わせに遅れた事といい僕は里香を怒らせてばっかりいる。
最初は一緒に病院をでるつもりでいたのだが何やら里香が

「私ちょっと寄るところがあるから」

なんていうもんだから少し時間をずらして病院をでた事が裏目にでてしまった。
色々とあったが体力も順調についてきた里香はある程度なら外出の許可ももらえる様になってきた。
それでもって今日は日曜日、空は快晴で絶好のデート日和(?)だ。
まぁお互い入院患者で平日も休日も大して変化はないのだが、
里香がどうしても今日というのでそれに合う様にスケジュールを組んできた。
最近里香がやたらと司と話ているのを見かけるので不安になっていたので、
里香のほうからデートに誘ってもらえたのは正直かなりうれしかったりする。
里香と一緒に映画を見た後はおいしいと評判の店でごはんを食べて、
組んできたスケジュールを頭の中でおさらいしてみる。
「あぁ、ちゃんと楽しませるから任せてろって」
親指で自分を指差しつつ男らしさをアピールしてみた、が
「任せてもいいけど、お店の休業日を知らなくて屋台で晩御飯、ってのは無しだから」
「ぅ…ま、まぁあの時食ったラーメンも中々美味かっただろ、」
俺の必死な言い訳に里香は笑いながら
「ま、裕一に任せるからちゃんと楽しませてよね」
「お、おう任せとけヨ!」
よ、の発音が高くなってしまったが里香が笑ってくれたのでまぁよしとしよう。



『楽しかったねー』『最後少し声をあげちゃった』『意外に怖くなかったな』
映画が終わり、それぞれ映画感想を話し合いながらでていく人がいる中、
僕達(もとい僕一人)はしばらくそこにじっとしていた。
里香の体を思っての事だ。決して足が竦んでしまったとかではないぞ。
「裕一、まだいかないの?」
立ち上がっている里香が不思議そうな、しかし、どことなく含みのある笑顔で覗き込んでくる。
「ま、まだ、人がいなくならないと万が一を考えると危ないだろ」
里香はフーンと笑うとそれ以上は何も追求してこなかったが、ふと何かを思い出したように僕の隣に座りなおした。
「そういえば、裕一って甘いものとか大丈夫?」
「大丈夫って?」
いきなりそんな事を聞かれたものだから僕は思わず聞き返してしまった。
「だから、好きかどうかってこと」
里香は少し拗ねた様な言い方をしている。
なんでそんな表情をするのかよくわからないがとりあえず答えておく。
「甘いものは別に嫌いじゃないけど」
素直に答えると里香は笑顔になった。
「そっか、よかった」
何がよかったのかはよくわからないが、
里香の笑顔を見れれば別にそんな事は些細な問題である。
5分程、無言の時間が過ぎたがその間、何が嬉しいのか里香はずっとニコニコしていた。
ショックからもだいぶ回復し、僕はすっと立ち上がると里香に手を差し伸べた。
「よし、いくか」
里香はそうだね、と言い僕の手を握り返してくれた。
「次はうまい飯でも食いにいこうぜ」
うん、と言い里香は歩き出そうとしたがふと立ち止まり
「裕一、あんまり食べ過ぎたら駄目だからね」
え?なんで?と里香に思わず聞き返してしまったが里香はその理由について教えてくれないまま映画館を後にした。

「それにしても」
映画館をでてしばらくすると里香が意地悪な笑顔で僕に話しかけてきた。
「裕一って怖いの苦手なんだね」
「うっ…」
「怖いの苦手なら見ようなんて言わなければいいのに」
(…なんでコイツはこんなに平気なんだよ…)
別に怖いものがそこまで苦手と言うわけではなかった。
だが最近そういう系は全く見なかったせいか気づかない間に免疫力というかなんというか、そういうのが落ちてしまったようだ。
「べ、別に怖くなんてなかったぞ」
思わず強がってみるが、里香はフフリと笑うと
「そう?だったらもう一度見ようか」
そういって僕の手をひきもう一度映画館に入ろうとする。
「わ、わかった、怖かったって!だからもう一回チケット買おうとするな!」
里香が受付でチケットを買おうとしていたので慌てて静止する。
里香はもう一度フフリと笑うと
「分かればよろしい」
笑いながら前を向き歩き出したが少し歩くとまたこっちを振り返った。
僕は何事かと里香の顔を見てしまうが里香はそんな事お構いなしに僕に顔を近づけそのまま

チュッ

「?!」
唇に軽いキスをされた。
「ふふ、隙あり」
少し頬を赤くしながら里香がそう言ったが僕は一瞬何が起こったかわからずに硬直してしまう
「な、な、いきなり何やってんだよ!」
思わず顔を隠し冷静に保とうとするがみるみる顔が熱をもってくるのが自分でもわかる
「なによ、キスしちゃいけないっての?」
里香は全く悪気のないといった表情で僕を見ている
「い、いや、せめて時と場所くらい選べよ!」
何事かと周りから注目の視線を浴びているがそんな事も忘れて僕は大声で怒鳴ってしまう。
「いいじゃない別に、誰も見てないよ」
当たり前の用に言う里香に何も言えずにいると
「あれ、裕一もしかして照れてるの?」
なんて言いながら顔を覗いてくるもんだから
「う、うるさい!」
無駄な抵抗だとは思いつつも必死に里香から顔を隠していた。
里香は更に意地悪な顔で笑うと
「もう、キスくらいどこでしてもいいじゃない、そんなに照れる事じゃないのに」
「お前は恥じらいってもんがないのか!」
また周囲の視線を忘れ叫んでしまう僕に里香は少し唇をとがらせながら僕に言った。
「裕一の声が一番みんなの注目を集めてるよ」
里香の言葉に回りから好奇の目を浴びせられている事に初めて気がついた。
「お、お前がいきなりあんな事するから!」
思わず里香に責任を転嫁させようとしてみたがそんな事で納得してくれる里香ではない
「裕一が勝手に騒いだんじゃない、私のせいじゃないよ」
あくまでも里香は自分が正当だと言い張っている。
「それにさっき見た映画でもヒロインはみんなの目の前で主人公にキスしてるシーンがあったじゃない、
あれと同じだと思えばいいよ」
現実と映画の世界は全然違うんだ!、と言いたい気持ちを抑えこのままでは埒が明かないと思い
「と、とりあえず早く飯食いにいくぞ!」
僕は里香の手をひきながらそそくさとその場を後にした。

で、結局こうなるわけか。
僕は不幸の女神、疫病神、その他諸々なものにでも取り付かれているのだろうか。
あの後里香と一緒に調べておいたお店に行ったのだが、運の悪いことに店の偉い方が怪我したとかで
臨時の休業日となっていた。
もちろん調べておいた場所はそこだけではないのだがなんと、その他の店も色々な事情で今日は休みとなっていた。
そうこうしているウチに段々と日は暮れ、空が赤色に染まる時間にまでなってしまい
仕方なく今、コンビニで買ってきたお弁当を里香と二人、朝待ち合わせに使った噴水広場で
ベンチに座って食べているところである。
こんな日もあるよ、と里香が慰めてくれなければ僕は泣いていたかもしれない。いや、事実少し目が潤んだ。
「それにしても裕一ってついてないよね」
里香がお弁当に入っていた卵焼きをつつきながら僕に言ってきた。
「・・・ああ」
僕はすっかり意気消沈してしまい里香の方を見ることができなかった。
里香がむーっと唸り僕の弁当に入っていた唐揚げを一つ割り箸で摘み上げた。
そのまま僕の口の前までもってくると
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。はい、アーン」
僕は里香の言うとおりに口をあけるとそのまま唐揚げにかぶりついた。
意外に大きく、すぐには食べきれず口の中でモゴモゴとやっていると
「アハハ、裕一ハムスターみたい」
僕は、む、と里香の方を見てみると里香はまだアハハと笑っている。
酷いな、そんなに笑うことはないのに。
なんとか唐揚げを食べ終わると僕は里香に話し掛けた。
「ごめんな、里香、うまい飯食わせてやれなくて」
里香はいいよ、と言うと弁当をベンチに置いてからすっと立ち上がった。
少し歩きだし噴水の近くまでいくとふと里香が僕に手招きをした。
僕はなんだろう?と考えてみたがよくわからなかったのでとりあえず里香の方に行ってみる事にした。
「なんだよ」
僕が里香に聞いてみると里香はエヘヘと笑い少し頬を赤く染めている。
里香にしては珍しく、もじもじと何か言いにくそうにしている。
そんな里香が可愛くて僕はいますぐにでもお持ち帰りしたい気分だ。
そんな事を考えていると里香が鞄からゴソゴソと何かを取り出し始めた。
僕はハッと我に返り里香の行動に注目してしまう。
「はい、これ」
里香が手を差し出すと、そこには綺麗にラッピングされた正四角形の何かが乗っていた。
大きさは両手に乗るくらいのものだ。
「え?」
僕がキョトンとしていると里香が疑問を浮かべた顔で僕に言って来た。
「裕一、今日何の日か知らないの?」
今日?2月14日?今日は何かあったかな、僕の誕生日ではないはずだし、里香と出会ってまだ一年もたっていないので
別に記念日とかでもなさそうだ。
頭の中でグルグルと思考が渦を巻いていると里香が心底呆れたといった表情で僕に言った
「今日は2月14日、バレンタインデーだよ」
あぁ、そうか、今日はバレンタインか、昔はみゆきに貰ったりもしたのだが中学くらいからは
一個も貰えない様になりすっかり疎遠となってしまったイベントだ。
あれ、まてよ、ということはもしかして里香がもっているものは。
「え?これ、俺に?」
里香は他に誰がいるのよ、と言い僕に綺麗にラッピングされたチョコレートを渡してくれた。
「手作りだけどちゃんと味見したから味は保障するよ」
そんな事を言いながら里香は頬を少し赤く染めながら僕のほうをジっと見ている。
「これ、今食べてもいいか?」
里香の意図するところを読み取り聞いてみる。
どうやら正解だったみたいで里香は笑顔でいいよ、と言ってくれた。
流石にきれいにラッピングされた物を破って明けるのは何なので綺麗に開けようとすると割りとてこずってしまった。
包装紙を取り、中の四角い箱の蓋を取ると中にはハート型のチョコが入っていた。
僕はそれを半分に割り、一つはもう一度箱の中へ、もう一つを手に取った。
里香が全部食べないの?と聞いてきたがそんな事はない、もう半分は病院に戻ってからじっくりと味わう事にした。
「それじゃ、いただきます」
はいどうぞ、と里香が言ったので僕はチョコをとりあえず一口食べてみた。
「・・・」
しばらく無言でいると里香は不安になったのか、おいしくなかった?等と珍しく慌てた顔になっている。
「・・・まい」
「え?」
突然僕がしゃべった事に驚いたのか里香がキョトンとした顔をした。
「うまい!!うまいよ里香!!里香がこんなにお菓子を作れるなんて正直以外だったまるで司の味みたいだ!」
司の名前がでた瞬間一瞬里香の目が泳いだ気がしたけど僕はそんな事は気にせずに里香を褒め称えた。
そ、そう、よろこんでくれてよかった。等と里香は歯切れが悪そうに笑っている、どうしたんだろう。
「一体いつの間に練習したんだよ?こんなに作れるなんて知らなかったぞ」
僕は里香に質問してみたが
そ、そんな事いいでしょ、早く食べちゃってよ。
なんて急かすもんだからうまく味わずに食べてしまった。

それからまたベンチに座り直し里香とたわいない話などで盛り上がっていると公園の街灯に明りがつきはじめた。
噴水もライトアップされどことなく幻想的な雰囲気をかもしだしている。
楽しい時間とはあっという間に過ぎていくもので、気がつけばそろそろ帰らないといけない時間になっていた。
「あ、もうこんな時間なんだ」
里香が公園に設置してある時計を見て言った。
「お、ホントだ。そろそろ帰るか」
僕はすっとベンチから立ち上がると里香に手をさし伸ばした
里香はそうだね、と言うと僕の手を握り勢いよく立ち上がった。
勢いをつけすぎたのか、里香の体が少しフラついたので僕は里香を支えようと思わず抱きしめてしまった。
あ、等とお互いに声を揃えて言ってしまったがお互いに離れようとはしなかい。
それからしばらく無言の時間が続いたが里香が話を切り出した。
「時間って・・・ホントすぐに過ぎてっちゃうね」
里香はホントに小さな、ささやく様な声で話している。
僕は、うん、と相槌を打つと里香の次の言葉を待った。
「・・・このまま、時間が止まっちゃえばいいのにな」
里香の声が震えているように聞こえたので僕は里香を抱きしめる手に少し力をこめた。
里香はひとつひとつ、丁寧に言葉を選んでるみたいだった。
「・・・このまま、ずっと裕一と一緒にいられたらいいのに」
それは無理だ、そう分かっているのに僕もそれを望んでいる。
いつかかならず終わりがくる、そんな事は言われなくてもわかっているつもりだ。
別れがくるのは明日かもしれない、いや、もしかしたらこの後すぐにその時は来るのかもしれない。
でも僕は勇気をだして里香に言ったんだ。
「・・・ずっと・・・一緒にいればいいさ」
里香は何も言わずにただ僕の胸の中に強く頭を押し付けた。
そうさ、僕と里香はずっと一緒にいてやる、死神が来たなら僕がパンチで追い払ってやる。
天使がきたなら僕の言葉で巧みに騙してやるさ。
だから、だからずっと一緒にいよう。
「・・・」
ふと里香が僕を見上げている事に気づいたもう何も言わなくてもわかっている。
僕はすっと里香の顔に自分の顔を近づける。
里香が目を瞑ったのを確認するとそっとキスをした。
─…どれくらいそうしていたのかは分からない。
ふと里香が僕から離れた。
里香は笑いながら
「裕一のキス、甘いね」
なんて言っている。
僕は腕の中のぬくもりが去って行くのを名残惜しくも感じながら、
いつもの里香に戻った事が嬉しくも感じた。
「そりゃ、さっきチョコ食ったしな」
そうだね、と里香が言いベンチに置いてあったチョコの箱を取り、おもむろに半分のチョコを食べ始めた。
「うん、おいしい」
里香はそういいながらあっという間にチョコを平らげてしまった。
折角あとで食べようと残していたのにそれはあんまりというものではないだろうか。
「よし、それじゃ帰ろっか」
落ち込んでいる僕など意に介さぬように里香は帰る支度をし始めた。
「ちょ、ちょっとまてよ」
帰る準備のできた里香を慌てて静止する。
里香は何よ、と言い僕の方を見ているがここで負けてしまってはデートの半分くらいが意味のないものになってしまう。
「ま、まぁいいからそこの噴水の前にちょっとたっててくれないか」
里香が言われたとおりに噴水の前にたつと僕はカバンの中にいれていた一丸レフのカメラをとりだした。
レンズキャップを明け里香と噴水をファインダーに収めピントをあわせた所で
「笑えよ」
そう言ったのだが、
「命令すんな」
里香がカメラに向かってイーをしたところで僕はシャッターをきった。
よし、僕は頷きカバンの中にカメラを直して帰る準備をした。と言ってもゴミを片付けるだけなのですぐに済むのだが。
片付けを終えると僕は大きく伸びをしながら言った。
「よし、帰るか」


帰りがけ、手をつないで帰っていると里香が話し掛けてきた
「裕一ほんとに写真好きだね」
自分ではそんなつもりもないのだが気がついたらカメラをよく持ち歩くようになっていた。
些細なものでも写真に収めてしまうし、里香と一緒にいる時なんて二十枚ほどは軽く撮っている気もする。
少し悩んでいると里香が
「私と写真、どっちが大事?」
なんて冗談めいた顔で聞いてくる。
ここで正直に答えるとなんだか里香に負けた気がするのでそこら辺はうやむやに返事をしておいた。
街灯は少なく二人の顔もよく見えないような暗闇が広がっている道を歩いている。
僕達の行く道はこういう道なのかもしれない。だけど、そこには微かな光が降り注いでいた。
それは決して太陽がでているように明るいわけではない。
だけど、真っ暗ではないと感じられる、確かな光だ。
僕はそこでふいに立ち止まった。
里香がどうかしたのか、と言った顔をしている。
僕はカバンからカメラをとりだすと空に向かって構え、少しピントをあわせシャッターをきった。
「裕一、何撮ったの?」
里香が聞いてきた。
「ん、ちょっとな」
僕はカバンをカメラに直して里香と手を繋いだ。
「よし、いくか」
里香はまだ気になっている様子だが僕が歩き出すと一緒に歩き出した。
空には半分の月が上っていた。

COMMENTS

いい、いいよこれ。何気ない日常がとてもよくかかれてるねー!

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