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作:安自矢意さん「戒崎夫婦結婚目前破局事件 第6話」

「あれ?世古口君、どこ行くの?」
いそいそとその場を離れて歩き出した世古口君を、私は呼び止めた。
「あ、いや、ちょっとトイレに……」
「トイレ?」
「うん、なんだか緊張しちゃってさ」
流石は世古口君だ。自分の事でもないのに緊張してトイレだなんて。よく見ると確かに、世古口君は右手と右足が一緒に出ていた。
「すぐ戻るよ。水谷さんは待ってて」
「早く来ないと終わっちゃうよ」
「そうだね。早く済ませないと」
言って、世古口君はきびすを返して一直線に走り出す。よほど我慢していたんだろうか。
ま、いいか。世古口君がこうなのは、いつものことだし。そう思って私は再度壁から家庭科室をのぞき込んだ。さっきまで自分の上にいた大きな体が、今はいない。世古口君と一緒だったら特になんともなかったけど、1人だと結構恥ずかしがった。今更になって、(早く帰って来ないかなぁ)と思う。それほどまでに、世古口君にはどこか、自分を安心させてくれるものがあった。
先生が1人、私の前を「ん?」といいたげな目をして通り過ぎた。恥ずかしい。
自分で顔が赤くなっていくのが分かる。

  ザッ…ザッ…

後ろから足音が聞こえてきた。
世古口君、もう済ませっちゃったんだ。そう思ったけど違った。
足音は1つじゃない。4、5人くらいが固まってこちらに向かってくる。それに、かすかだけど女子の声も聞こえた。
「………輩、ど……行く……」
「なん……………か?」
「……さ…!」
「…堂先…?」
「ちょっと!そこ…………」
最後の声だけやけに前半部分がハッキリと聞こえた。そんなに大声を出してどうしたんだろう。
壁から家庭科室を覗くのを止め、何事もないように壁にもたれかかる。十数秒で、足音の主達は私の視界に現れた。
先頭を切って歩いてきたのは、演劇部の藤堂 真美だった。会話したことはなかったが、同じく演劇部の柿崎 奈々に散々愚痴られた経験があるので、名前と顔は嫌でも覚えていた。
その藤堂が私を通り過ぎた後に、3人の一年生が怪訝な顔をしながらも続き、最後の足音が、
「み、水谷先輩っ!」
私を呼んだ。そこには、里香の誘導という依頼を受諾した本人、吉崎さんんがいた。(里香とのつながりで知り合った彼女を、私は里香と同じく『吉崎さん』と呼んでいた。)
「ど、どうしたの?」
私が質問をするが、
「あ、あの人達、止めてください!」
何故かそんな言葉が返ってくる。なにがなんだがサッパリだ。
「落ち着いて。一体何が……」
「あの人達、家庭科室に、入ろう、と……」
「え?」
吉崎さんの言葉を頭で巡らせて半秒、
「えぇ~~~~!?」
私はようやくその意味を理解した。

まったく、裕ちゃんも里香も、なんでこんなにトラブルを巻き起こすんだろう…
…?

慌てて後を追いながら、私はつくづく呆れてしまった。


     φ


「あの子、可愛いな~~~。あの子も演劇部?」
体育館に入るなり、彼は舞台に立っている1人の女子に釘付けになった。自分のすぐ左で苦虫を噛み潰した表情の藤堂 真美には目もくれずに。
「………知らない」
その表情のまま、藤堂は答えた。
ふざけている。あの女は誰だ?演劇部にあんな女はいない。
どうやら自分の代理として舞台に出ているようだ。時間がなかったのだろう、台詞も大幅にカットされてある。
そう、自分の代理のはずなのだ。なのに、自分よりも演技が巧いとはどういう事か。
とんでもなく迫真した演技だった。体育館と言う場は完全に彼女に支配されていた。誰もが彼女に息を飲み、感嘆の表情を浮かべていた。
「え、知らないの?じゃあ演劇部じゃないのか……」
この男もさっきからずっとこの調子だ。発言イコール舞台の女になっている。
さっきまで自分の嘘泣きにまんまと騙され、「もう君しか見ないよ」などと青臭くて聞いてもいられない言葉を吐いていたのはどこのどいつだ。
屈辱だった。自分の落とした男が、ほかの女のなびいている。今までそんな事はなかった。目移りするのは、自分の方だった。だが今はどうだ。男は自分にまったく見向きをしない。舞台に立つ女ただ1人に向けられている。プライドが呆気なく崩された。ムカつく。忌々しい女だ。
最後の最後で、体育館は大円団に包まれた。それもやはり、舞台の女の力だった。
近くで白衣を着た男と髪の赤い女が周りも気にせずゲラゲラと笑っている。
くそ、なにがそんなにおかしいんだ。
笑い声が木霊するなか、藤堂ただ1人だけが険悪な表情だった。

だから復讐する。
秋庭 里香を、自分と同じ目にあわせてやる。
思い通りにいかなくしてやる。
プライドをズタズタにしてやる。
戒崎 裕一から、引き離してやる。

もう藤堂 真美には
周りの声など聞こえていない。
家庭科室の扉まで、あと20mほど。


     φ


正直、戒崎 裕一が邪魔だった。何故かって?向こうも、自分の邪魔をするからだ。
もう少し、あと一押しというところだった。自分はそれはもう熱心に勧誘した。
今までであんなに勧誘に一生懸命になったのは、あの時以外にない。
確かに自分は引退した。もう二度と高校生として舞台に出ることはない。だからお節介だと言われれば、確かにそうだ。
でもそのままにしては置けなかった。性分だろうか。彼女の才能が生かされぬままでいるというのが気に入らなかった。勿体無い、と思った。
だから本気で勧誘した。サラサラの黒い髪の美少女、秋庭 里香を。
本当にあと少しだった。あのままいけば、秋庭 里香は演劇部に入部してくれるはずだった。
だがそれは1人の男によって阻止された。
言うまでもない、戒崎 裕一である。
いきなり口を挟んだかと思ったら、「里香には無理だろ」だの「長続きしないって」だの言い散らかして、その場をはぐらかされた。
本当にウザかった。戒崎 裕一という存在が。
だから、秋庭 里香と戒崎 裕一が別れたとの朗報はこの上ないチャンスだった。
丁度10日後に山上祭の打ち上げの予定もあった。
秋庭里香み丸め込むにはこの上ない状況だ。しかも、秋庭 里香は戒崎 裕一と別れたときている。危険因子などどこにもない。
だから、戒崎 裕一が秋庭 里香に話しかけようとしていたときは、必死だった。
彼が何か喋る前に口を挟み、有無を言わせずにその話題を強制終了させる。
前に戒崎 裕一が自分に使用した手口だ。案の定秋庭 里香は、こちらに歩いてきてくれた。あの時の戒崎 裕一の表情といったら、面白くって今でも笑ってしまうかもしれない。

だから今回も邪魔する。
秋庭 里香と戒崎 裕一を引き離す。
この事件の黒幕が藤堂 真美だということは彼女の性格から薄々感づいている。
が、向こうの都合は、この際どうでもいい。
むしろ、その都合とやらを利用してやろう。

視界から、1つの巨体が現れた。
丁度良い。どこにいるのか、聞こう。彼なら答えてくれるだろう。

「ねぇ、世古口君」
「え?えっと、柿崎さん?何か用?」
「秋庭さん、どこにいるか知らない?」
「あぁ里香ちゃんなら家庭科室……あ」
「そ、ありがと」
「え、あ!ちょっと……!」


柿崎 奈々もまた、家庭科室へと足を進めた。

<続>

COMMENTS

うはテラ逆泥沼w
里香争奪戦だよ~
次回もワクテカしながら待ちますw

つづきをはやく~

うはwww
周りがめっさドロドロになってるw
もうワクテカしていますw

里香は本当に周りを狂わせる、魔性の女ですねw
続きが気になる。

しゅしゅしゅしゅしゅしゅ修羅場~

 このぐらいの長さだと、私みたいに、平日にあまり自由な時間を確保できない者でも、気軽に読むことができるので、嬉しいです。
 次は、クライマックス?それとも、まだ波乱は続くのか?…次が楽しみですね。

女って怖いっすね

女って奴はほんとに、、、

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