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作:戯言遣いさん 「半分の月がのぼる空 the side story ~a girl like a half moon beside me~(Part C)」

 「裕一!」
 里香は、悲痛にも聞こえる声で僕の名前を叫んでいた。
 …何で?何で里香が、僕の病室に来るんだ?
 混乱した頭で呆然と里香を見つめている僕に、里香は走り寄ってきて窓から引き離し…
 「がふっ!?」
 床に、頭から叩きつけた。
 「裕一のバカ、本当に落ちちゃったらどうするのよ!」
 僕の目に里香のクリッとした大きな瞳が映る。気のせいかな、水滴みたいな物が瞳の端にたまってる。
 里香…心配してくれたのか。最近の冷遇ぶりが嘘みたいなその里香の姿に僕は感動を覚えたのだが…
 「痛…いった…痛…」
 さっきのみゆきとの会話で一度決壊した僕の涙腺は、床に叩きつけられた頭の余りの痛さに再び決壊していた。痛すぎてリアクションすら取れない。良く見れば、里香の瞳に涙がたまってる様に見えたのは僕の視界が僕の涙で潤んでるだけだし。
 そんな情けない状態で、僕は里香に馬乗りにされ罵詈雑言を浴びせられながら僕は生死の境を彷徨っていた。こんなに一日に何度も何度も顔や頭にダメージを受け続けていたら、その内入院する理由がA型肝炎じゃなくなってしまう…。
 …あぁ、それにしても里香に馬乗りにされて罵詈雑言を浴びせられるって、もっと良いムードなら大歓迎なのになぁ…惜しいなぁ…。…いや、だからマゾじゃなくてさ。
 「裕一、聞いてる!?」
 「聞いてまふ」
 「『まふ』って何!?やっぱり聞いて無いじゃない!」
 し、死ぬ…殺される…だ、誰か…。
 「り、里香、床に強く打った頭をそんなにブンブン揺らしたら裕ちゃんもっとバカになっちゃうから、もうその辺にしとこう?」
 「…そうだね、裕一がこれ以上にバカになっちゃったら困るもんね」
 「そうだよ、バカは治らないんだからせめて少しでもこれ以上バカにならない様にしないと」
 「ちょっと待て二人共…」
 そんなにバカって言葉を女二人でラリーさせるな…。
 「うるさい」
 「裕ちゃんは黙って」
 「………」
 何でだよ?
 「里香、裕ちゃんに会いに来たんでしょ?私、そろそろ帰るね」
 「あ、うん」
 「また来るね。今度また別の本持ってくるから」
 「うん、ありがとう。またね」
 「バイバイ」
 病室を出ていくみゆきに手を振りながら、僕は里香を見てみた。
 笑ってる。
 冷戦前と変わらない満面の笑顔だ。
 …途轍もない数の疑問符が僕の頭の中に発生していた。何だ、何なんだ。何で里香は笑ってるんだ?この十日間近く今までに無い位怒って僕を無視し続けてたじゃないか。その里香が、何で突然何の前触れも無くニコニコ笑ってるんだ?
 「裕一」
 「はい」
 思わず、床に正座してしまう僕。
 「またあんな事したら、次は許さないからね」
 ………『病院のあの子』の事か。
 「…あぁ、分かってる」
 捨てられないけどさ。いや、捨てないんじゃなくてあくまでも捨てられないだけだぞ?その筈だ、うん。
 「本当にビックリしたんだから」
 「…ごめん。本当にごめん」
 僕の得意技になりつつあります、平謝り。
 「…何であんな事したの?」
 来た。
 追求が来た。
 どうする、バカ夏目がやった事だって正直に言えば良いんだろうか。でも里香は例え本当の事でも言い訳とか嫌いだし通用しないから、嘘でも良いからもっともらしい事を言って謝った方が良いんだろうか?
 「何であんな事したの?」
 黙ったままなのが良くなかったのか、里香の声の調子が低くなる。…怖っ。
 「…り、里香、あれはその、ちょっとした気の迷いというヤツで、い…いや、迷ってはいないし気は確かなんだけどあれはバカ夏目が」
 「夏目先生?何で夏目先生が出てくるの?」
 「え、い、いや…そのだって、」
 「裕一が窓から飛び降りようとした事に夏目先生がどう関係あるのよ」
 「………………………………………………………………………………………………………え?」
 三点リーダ39個分の驚きなんですけど………当社比ジャスト13倍。
 「『え?』って何よ」
 「い、いや…」
 …え、もしかして里香、『病院のあの子』より飛び降りようとした事の方に怒ってるのか?あの里香が、エロ本の事を怒ってない?
 ………いや。いやいやいや。ちょっと待てよ戎崎裕一。確かにみゆきなら時間が経ったら一発位殴られる(チョキかも)にしろ、エロ本を晒した事位水に流してくれるだろうさ。
 でもさ。
 里香だぞ?
 前に戎崎コレクションがバレた時の里香を思い出せよ。あの里香の怒り様を。
有り得ないだろ?里香が僕の病室でエロ本見付けて怒らないなんてさ。
 「何なのよ」
 追求の手を緩めない里香の顔を、恐々しながらチラッと見てみる。
 …うん、怒ってるな。怒ってるよ。目が怖いって。何か気迫すら感じるよ。目だけで気圧されるのは男としてどうなのかという疑問はこの際放っておくが、とにかく里香は怒ってる。
 …でも…何て言うか、本気で怒っては…ない?
 「…ご、ごめんごめん、ちょっと勘違いしてて…」
 順番に考えるんだ…。まず、里香がエロ本を見付けたりなんかしたら怒らない筈が無いよな。で、僕が窓から飛び降りようとした事を怒ってるとすると、さっき散々僕の頭を振ったんだから、今この場でまた飛び降りようとした事を怒ってるのはおかしい…よな。
 …って事は。
 もしかして。
 『病院のあの子』を僕が持ってる事は里香にバレて…ない?
 「飛び降りようとしたのはさ、ここ十日位里香に無視されてたのがあんまりキツかったからつい勢いでやろうとしちゃったからで…」
 考え事しながら喋るなんていう慣れない事をしたせいで、思わず格好悪い本音が出てしまった。
 あ、でもこれで何で里香が僕を無視してたのか分かるじゃないか。…いやちょっと待て、もしかしたら里香は寛大にもこの十日間でエロ本の事を水に流してくれたのかもしれないじゃないか。しまった、蒸し返しちゃった!?
 「あ、そ、それは…あの…」
 だけど、てっきり今以上に怒り出すと思った僕の予想とは全く違った様子を里香は見せた。
 あの里香が、どんなに失礼で普通言わない様な事でも何でもズバズバ言うあの里香が、僕の質問に答えるのに困っていた。質問を質問で返されるのも嫌いなあの里香が。僕がたまに正論や答えにくい事を訊いても怒ったり不機嫌になるあの里香が。
 でも、この反応で僕は確信した。
 『病院のあの子』の事は、里香にバレてない!
 それは僕に途轍もない安心感をくれる事実だった。おい戎崎裕一よ。やったな戎崎裕一よ。これで『病院のあの子』はお前の物として安泰だ戎崎裕一よ。
 「やった…!」
 「え、何?」
 「いやいや何でも無い何でも無いから気にするな」
 「…変なの、棒読みでガッツポーズまでして」
 「こっちの話だって、こっちの。気にするなって。それよりさ。何でいきなり無視してたんだよ。正直言って、本気で嫌われたと思ってかなりヘコんでたんだぜ?」
 うはは、気分が良いと恥ずかしいセリフでも素直に言えちゃうな。やっぱりちょっと恥ずかしいけどさ。
 「あの…それはその…」
 「耳栓三つも使って無視してさ。何かよっぽどの事があったんだろ?」
 うはははは、里香が困ってる所なんて珍しいし、たまには僕の方から追求してもっと困らせてみよう。困った顔も可愛いし。にしても、本当に珍しいよ、里香が困ってるなんて。…って、あれ?良く見たら顔赤いな。耳まで赤いや。そんなに困ってるのか。
 「そ、その…あ!そう、ママとちょっとケンカして!」
 「何だよ『あ!』って。っていうか嘘だろ?無視され始めてから亜希子さんに聞いたけど、ここんとこずっとお母さん忙しくて来れて無いらしいじゃんか」
 「うっ……あ!そう、最近読んだ本の終わり方が納得いかなくて…」
 「お前が最近読んでた本も亜希子さんから聞いたけど、あの…何だったっけ、あぁそうだ『生協の黒石様』だっけ?あの本は終わり方も何も無いだろ」
 「…裕一、絶対わざとタイトル間違えてるでしょ…」
 「タイトルなんて別にどうでも良いんだって。…っていうか、今そう言うって事は読んでるの認めたって事だよな」
 「うっ…」
 あからさまに嘘をついてる上に、本当の事を隠すならともかく誤魔化したりするのが下手な里香はもうボロを出しまくっている。もう一押しだ。
 「なぁ、別にもうどんな理由でも怒ったりしないからさ、その代わりって訳じゃないけど、ちゃんと理由を教えてくれよ。でないとやっぱ気になるんだよ」
 「…うぅ~~」
 あれ、真っ赤っかになった。うわ、メチャクチャ可愛いぞ…カメラで撮りたいな…。
 ………って。そうじゃないだろ。
 「…言いたくない…裕一には言いたくない…」
 「は?何で?」
 「どうしても!どうしても言いたくないの!」
 「何でだよ、言ってくれよ!気になって仕方無いだろうが!」
 「だって恥ずかしいんだもん…」
 里香は両頬に手を当てて、真っ赤っかになった顔を所在なさげに小さく振っていた。何というか、そういう一動作一動作全部が可愛い。反則だ。何となく、友達が家で飼ってたハムスターが顔の毛繕いをしてるのを思い出した。あの微笑ましい感じ。
 「恥ずかしいってよく分からないけどさ、怒らないしバカにしないし誰にも言わないからさ」
 食い下がる。最初は意地悪してやろうって気持ちだったのが、既に絶対聞き出してやろうっていう意固地な気持ちに変わっている。
 「だから、裕一に知られるのが恥ずかしいの!」
 「だからそれは何でなんだよ?」
 「う~~、もう、何でそんなに気にするのよ…」
 「いや、だってそれはお前…」
 「だって何?」
 僕が一歩引いたのをチャンスと見たのか、里香が突っ込んできた。僕は躊躇いつつ、でも、答えを知る為、良い機会なんだと自分に必死に言い聞かせ、
 「だって、自分の好きな女の子に十日間も無視されたら誰だってその理由は気になるから…さ」
 一世一代とは言わないが、この僕、戎崎裕一としては最上級にストレートな気持ちを、何とか噛まずに口にした。
 途端。
 真っ赤っかだった里香の顔が、更に真っ赤になった。
 その時の里香の表情を、僕は良い意味で死ぬまで忘れないと思う。
 目は驚きと嬉しさがない交ぜ、口元は何かを言いたげなんだけど微かに開かない、言葉では表現出来ない、とても微妙で、でもとても嬉しそうな表情。
 僕は里香を見。
 里香は僕を見ていた。
 真っ直ぐに、見つめ合っていた。
 長くは無く、だけど決して短くは無い間をおいて、里香が口を開いた。
 「…裕一ってさ、ずるいよね」
 「ずるい?」
 心外だ。
 「うん。いつもは適当な事しか言わないのに、たまーに本当の事言ったり、凄い事したり、嬉しい事言うんだもん」
 「何だよそれ、それだとお前はいっつも本当の事言ってて凄い事してて俺を喜ばせる事言ってるみたいじゃないか」
 「そうだよ」
 そう言って、里香は真っ赤っかな顔のままあはは、と笑った。つられて、僕もうはは、と笑った。何その笑い方、と里香はまた笑った。またつられて、僕ももっと笑った。狭い病室に、二人の笑い声が響いていた。悪くない合唱だな、と、僕はガラにも無く思った。
 「…あのね」
 「うん?」
 里香は不意に笑うのを止めて、まだ赤い顔のまま、呟く様に言った。
 「無視したくてしてたんじゃないの。本当は裕一と話したりしたかったんだけど、どうしても出来なかったの」
 「…何で?」
 「…頭が痛かったの。吐き気もするし体はしんどいし、話したりするのも億劫になっちゃって」
 「おいおい、まさかまた心臓が…」
 冷や汗が出かけた僕の心配を、里香は首を横に振って否定した。
 「心臓は大丈夫。調子は良いから」
 「じゃあ何で体調が悪くなるんだよ…?」
 「誰でもそうらしいの。でも私初めてだったし、始まっちゃうと体調が悪くなる事も知らなかったからイライラしてたの」
 「勿体付けないで教えてくれよ、一体何なんだよ?」
 「………いり」
 「え?」
 「生理が…来ちゃったの」
 「………え?」


To be continude….

COMMENTS

続きが見てみたいですな~(^O^)

>初めて
マジか
落ち着け
マママッママママママアアアママッマママア(ry

…………バタッ。

おれ、ちょっと外でるよ・・・ハハハ。
あ、頭が・・・

うお~GJ!
『病院のあの子』かなり読みてぇwww
里香、遅い初潮オメデトウ!
ついでに大切な初めても裕一に捧げt(以下削除
パートBの作中で使用されている
パロディネタの幅が節操ない気がする以外は、
特に気になるところはありませんでした。
復帰、お待ちしています。

携帯持つ手がやけに震えるw小刻みに震えるぅ………う つ に な る w
この麻薬みたいなSSは反則w

もうぼくは、、、だ、、め、

もっと、続きを読みたいですね。

もっと、読みたいですね。

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